NFM column

※NFMvol.2引用

アングラーズシステム(株)

福田 紀之 代表

アングラーズシステム代表。射手座のO型。14歳の時初めてヤマメを釣って以来40有余年、一貫してアブラビレ一筋。20代に忠さん(忠さんスプーンビルダー)に薫陶を受けて以来数多くの渓流行脚を繰り返しスプーンの可能性を追求し続けている。

鬼怒川・この夢の川

諸兄。本格的な解禁を間近に控えた今日この頃、来るべきシーズンに向けて

モチベーションの維持はいかがだろうか。仲間達と、そして自分自身だけの2018トラウトストーリー。

そんな物語を創造すべき季節がいよいよ巡ってきた。もう少しの辛抱ではあるが、解禁を前にした

高揚した気分の今日この頃だからこそ、シーズン中にはまず考えないことの一つや二つをイメージしてみたい。

 栃木県近傍に暮らし、トラウトを志す者にとって普段忘れがちな事実がある。

 もちろん僕を含めて関東一円のトラウトマン達と言い直してもいいが、そんな我々はシーズン中、さも当たり前のように鬼怒川に釣行し、時に40オーバーのヤマメを、またある時は60近いレインボーを、さらにはサクラマスを手にする。鬼怒川という河川であればなんら不思議はなく、ごく見慣れた釣り風景と言ってよい。がしかし一度冷静に考えてみてほしい。全国規模で考えても、宇都宮を始めとした大都市を貫流し、きわめて多数のトラウトマンの釣行があってしかも約束されたがごとく頻繁に大物の釣果を見るのである。僕は経験が長いだけのトラウトマンではあるが、過去に東北、北陸、中部と主要な河川はほぼ釣行している。もちろん鬼怒川と同等、またそれ以上の釣果を手にした河川は存在する。

 しかし、それらの河川は市街地から遠距離であったり、数個の集落があるだけだったりという条件が付くが、東京という国際的なメガシティから2時間弱、新幹線も最新鋭車両を持つ私鉄も、高速道路も有料道路もすべて鬼怒川を跨いでいるという、ある意味「人間臭い」場所に位置する河川で前述のような釣果が望めるのは鬼怒川以外にない。

 これも前述したが鬼怒川が貫流する宇都宮という自治体は言うまでもなく北関東最大の都市で50万人以上の人口、流域全体を含めると85万人もの人々が暮らしているのである。そんな巨大な市域でケタ違いのトラウトが連続的に釣れる河川など鬼怒川以外に思い当たらない。あらためて鬼怒川。日本最大の河川、坂東太郎・利根川の支流だが長さ175㎞強は利根水系中最も長い。

 日光連山の奥鬼怒・鬼怒沼を水源としてきわめて深い峡谷を形成し、田園地帯を潤し、常磐自動車道の守谷SAから東京方面に行くと利根川を渡る橋を通過するが、その少し上流で利根本流に合流する。川筋には奥鬼怒温泉郷を始めとして旧女夫渕温泉(東日本大震災で閉湯してしまったがいい温泉だった)、川俣温泉、鬼怒川温泉、支流筋を見ても川治温泉、日光湯元温泉、湯西川温泉と名湯が目白押しである。我々にとってうれしいのは、それほど多くの温泉がありながら、トラウト達の生息を許さないような泉質の温泉が皆無であることだ。

 やはり利根川の支流に「吾妻川」という河川がある。上州を流れる名川であり「八ッ場ダム」が構築された川といえばピンとくると思うが、あの河川は上流に有名な草津温泉や万座温泉があり、それら強酸性の温泉水が吾妻川に流入し、酸性に弱いトラウトは生息できない状況なのである。

 吾妻川は群馬そして北信州などに釣行の際幾度も通過したが、水質さえよければ素晴らしい渓相の河川であるにもかかわらず、我々トラウトマンにとっては死の川と言い切れる。吾妻川ばかりではなく、温泉天国の日本には他にも温泉水のために魚族が生息できない河川はきわめて多い。このような事実を見るにつけ、鬼怒川流域の諸温泉には感謝したいし、それどころか無害で適温の温泉水の流入によって、他地域にさきがけて川虫が大量発生する。ここまでくると自然の奇跡の造形というか天祐としか表現のしようがないのである。こんな鬼怒川である。「鬼怒川に気軽に行ける場所に生まれてよかった!」と思うのは僕だけではあるまい。

 以上は鬼怒川の地勢や地理的条件を列挙したものである。諸兄も釣師であればもちろん理解されてるとは思うが、いくら立派な河川風景であろうが、いくら水質が素晴らしかろうが、維持管理がズサンであれば河川の荒廃など、いともたやすく起きてしまうものだ。加えてシーズンを通して平均的な釣果を約束できるだけの計画的な放流が為されているかも我々にとって大きなファクターとなる。というか満ち足りたトラウトライフを送るには最大の条件と言っていい。それらがすべて完備され、遠来の釣師から不平不満が極端に少ないのも鬼怒川の魅力のひとつである。奥鬼怒の天然イワナを始めとして、川俣ダム、支流筋の五十里ダム、川治ダム、そして最も新しい湯西川ダムと、そのすべてのダム湖には湖沼型サクラマスを筆頭に、大イワナ、巨大レインボーなどが生息し我々に夢を与え続けている。長年に渡ってこれらの魚種がいつの日にも平均的に釣れるのは河川が素晴らしいからだけではない。管理する漁協という組織のたゆまぬ努力があるからに他ならない。栃木県北部の箒川と並んでいち早くリリースの重要性を認識し実践した川治C&Rエリア、男鹿C&Rエリアを運営する「おじか・きぬ漁協」、鬼怒川本流を始めとしてきわめて多くの管轄水域を持つ「鬼怒川漁協」等、鬼怒川水系すべてをカバーする全漁協の真摯な取り組みは日本の内水面漁業の将来を暗示するものがある。

 日本の内水面漁業関係者の方々にはまことに失礼ながら、スポーツフィッシングの先進国家たるアメリカ(アラスカ)、カナダ、極東ロシア等の遊漁に関する河川従事者はほぼ20代~40代の若者ばかりであり、魚類はもとより環境に関しても非常に先進的で膨大な知識を持ち合わせている。たとえばアタリルアーの銘柄など完璧にそらんじており、専門家であるはずの我々でさえ舌を巻くほどだ。そういう観点から我が国の遊漁に対する管理者(いわゆる監視員)を見てみると、かなり高齢の方々が目に付くうえ、遊漁者に対しては高圧的かつ無知と言わざるを得ない。ほぼ平均的に全国の漁協の体質はこのあたりにあると断言していい。がしかしである。鬼怒川の幾多の漁協すべてが遊漁者に対してきわめて好意的であり、情報もオープンなのである。第一にまず知ったかぶりはしない。むしろ「こんな場合はどんな放流が希望ですか?」などと遊漁者に聞き返してくるほどだ。

鬼怒川支流に「荒川」という名川がある。支流には西荒川ダムが構築され堰止湖の「東古屋湖」があり入釣が容易なだけにその昔、餌釣師が大挙して押し寄せ、フラシに3つも4つも釣って持ち帰るという行為が行われていた時期があった。1つのフラシにさえ100尾以上は入るのである。そんなフラシが3つ4つである。一人で数百尾を持ち帰ってしまうし、そんな釣師が大挙して押し寄せて来るのである。これではいくら放流しようが切りがない。そこで漁協はフライとルアーの専用釣場にしたい、との希望を持ったのだが肝心の中心人物がいない。「それじゃ外部の専門家に依頼しよう」とたちまち外部委員会を組織、委員諸氏にすべてを委任してしまうという大英断に出たのである。これは日本の漁協としては驚嘆すべき変革で、旧態然とした過去の漁協体質をかなぐり捨て新時代の幕を開けたのであり、変なプライドや意固地さなどは忘れ、まさに時代が求めた専門家集団に変貌したのである。そんな漁協が管理する川で我々は遊べるのである。先にダム湖のサクラマスの話が出たが、本流の利根川から分岐して宇都宮あたりに至るまで遡上魚が遡上不能な人工構造物は皆無。太平洋から遡上した純血種や鬼怒マスとも呼ばれる戻りのサクラマス。そして不断に行われる放流による残りヤマメやイワナ。そのどれもがケタ違いなのが栃木の、いや東日本の名河川「鬼怒川」の偽らざる真の姿なのである。

 さあ2018年。諸兄にとってどのようなドラマが作られてゆくのか。新潟、福島、長野もちろん一級揃いの河川王国である。しかし直近の栃木というすぐに駆けつけられる県には40オーバーの大ヤマメ、50オーバーのネイティブレインボー等が生息する鬼怒川がある。今年も何人が本流ロッドを折られてしまうのか、非常に楽しみではある。あらためて諸兄、「灯台元暗し」のたとえもある通り、2018シーズンは足元を見直して「夢の川・鬼怒川」をさすらうことを願ってみたいがいかがであろう。

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